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千ひろ(ちひろ) [遠くの食卓(国内の飲食店)]

京都食べ歩きその4

祇園から車なんて絶対入れない路地を入るとそこは別世界。
入り口は表のお店の壁が迫っているので特にとても狭くて暗い。
本当にここは入っていい路地なのだろうか、実はここは私道で
この奥には裏口があるだけなのではないだろうかと不安になる。
その奥に、店の意匠を入れた灯篭が低い位置に置かれた店が 
ぽつりぽつりとならんでいる。
奥にずずいと入った所にあるのが千ひろ。
がらがらっと扉をあけて入ると 気持ちの良い白木のカウンターが延びていた。

店主を前にして、その作業の様子を見ながら食事ができるカウンター
は楽しい。使い込まれてはいるが、しっかりと磨きこまれたカウンター
を挟んで 正面には作り付けの食器棚。棚は木製の引き戸がついている。
この引き戸、板に格子状の木枠がついていて 障子の紙の部分も木に
なっているような造り。

寒い中を歩いてきて 最初に出て来たのが粕汁。ニンジンや蒟蒻
などを煮込んだものなのだけど、粕の味が違う。身体に染み渡る
温かみを感じながらいただいていると、店主が「普通の粕なら
つくろうとは思わなかったのですが、この美味しい粕が手に入った
ので作ったのです」と語ってくださる。菊姫大吟醸の粕。
確かに粕の味が、丸い。酒粕特有のとんがった感じも無く、
醗酵の味わいが深い。こってりしすぎずに仕上げてある粕汁に
せりのみじん切りの風味がよい。セリをこんな風にみじん切りで
使ったことが無かったので面白い。

お盆に小皿が5つ並ぶ。黄金色に輝く鯛の味噌漬け、数の子の粕漬け、
焼き銀杏、ゆり根の茶巾、ソフトな自家製からすみ。これはこれは、
お酒が進む肴ばかり。自家製からすみは、厚さ2センチ位に豪勢に
切って皿に乗っている。私が知っているからすみとは全く違う物。
ねっとりとした食感で、これをちびちび食べながらお酒を呑んで
いると本当に幸せだ。これこそ本当に珍味と言う感じ。だいたい、
普通のからすみはこの厚さに切ると固くて食べられないし、その
グラム単価を判っているからみみっちく薄く切ってしまう。
このからすみを分けていただきたいという人が多いというのはわかる。

そして、ゆり根の茶巾絞り。これが、あっさりしっとりと出来て
いて美味しい。食べている時には甘味がそれ程主張しないけど、
後味で甘味が感じられる。ゆり根は冬の北海道ではポピュラーな
素材と言うこともあって蒸したり茹でたりして これに似た物を
作ることはあるのだけど、これよりずっと甘さが強くべったりと
仕上がってしまう。店主におうかがいすると、これは蒸して酒を
少々加えて練っただけなので 「特に何も加えておらず それ程
味に差が出る部分は無いはずなのだけど…」と言うこと。ゆり根
もニセコの羊蹄産のものだということなのでそれ程大きな違いは
無いはず。今度はこの味を目指して蒸す時間などを幾つか変えて
トライしてみよう。目指す味があれば 改良が出来るはず。
調味料をたくさん使うものや、火の通し加減に微妙なワザが
必要な物などは なかなか職人の域に達することは難しいだろうけど、
この茶巾は何とか近づいてみたいと思わせる。
千ひろ.jpeg
1月は汁物としてお雑煮をと京都の白味噌のお雑煮。もちろん丸餅。
普通は家庭ではもっと甘く作るらしいのだけど、食べやすく
あっさり目に仕上げましたとのこと。確かに甘味がべったりこない
程よい甘さのお味噌。これに京人参、海老芋、ささがきゴボウなどが
入っている。お雑煮では海老芋ではなく、出世するようにという
意味を込めてかしらいもを使うそう。
お話しをうかがっていて驚いたのは、白味噌はお雑煮にしか使わない
ということ。通常は合わせ味噌にしたり、西京漬けのような調味料
に使うことはあっても、単独では汁物に使わないとか。そう言えば、
丸餅は雑煮のためのお餅で、普通に食べるお餅は角餅だというのを
関西の友人から聞いて驚いたことを思い出した。
京都のお雑煮は、味噌汁やすましにお餅が入った物ではなくって、
全く違う汁物なのだ。

鯛の兜蒸しは、頭の半分を蒸した物を2人で分ける。最初に身が
多い部分をいただくと、相方は目の周りを取る。口の周りは少々
大きかったことも有り どうしようかなぁと迷っていると、
「口の周りは良く動く所なので美味しいですよ」と勧められる。
迷っていたのは、本気で食べていいものかどうかということ。
というのも、あらは美味しい。ただ、本気で食べると、美しく
食べられない。そして美味しい物は本気で食べたいのだけど、
いいだろうか という逡巡。でも美味しいですよといわれたら
迷っていられない。いただきます。
美味しいですよといったけれども、普通はそんなにはしゃぶら
ないだろうと言うくらい片端から骨にしていく。骨の周りに
ついているプルプルした部分がうまいのだ。お箸で突ける所は
突いて、あとは骨ごと口に含んで美味しい所を余す所なくいただく。
コラーゲンたっぷりの鯛。食べていると段々唇がねっぱりしてきて 
はりつきそう。美味しい。かなり長い時間を掛けて最後の骨の
周りの肉までいただく。後で語り草になりそうだ。

そんな風に鯛を食べている間、店主をはじめお店の方は 奥の
厨房に入ってしまっている。これがとてもありがたい。
口の中で骨をより分けたり 出したりしている様子はきれいな物
ではない。それが目の前にお店の方が居たらちょっと気になって
しまうかもしれない。(それでも私は美味しい物は食べるのだけど。)
そんな時に、その場を外してくださるというのはちゃんと気配り
していただいていると感じる。その他にも、カウンターとこちら
との対話は、料理の説明の時にはきちんと相対して、食事の最中
は仕事をしながら手元をみてぽつりと素材の説明をしてくださり、
食事が終わってお話をするときには再び相対して と距離や視線の
持っていき方でいろいろな間合いで対面する。そんなカウンター
の内と外がその場の空気を作って嬉しい。
やはりカウンターでの食事と言うのは日本食の王道なのだなと感じる。

粕汁
酒肴5品(鯛の味噌漬け、数の子の粕漬け、焼き銀杏、ゆり根の茶巾、ソフトな自家製からすみ)
お造り 塩昆布といっしょに
お雑煮
鯛の兜蒸し
おぼろ豆腐の湯葉かけ
春野菜のかき揚げ
焼いた鯛のおろしがけ
かぶら蒸し
お茶漬けと漬物
バナナとりんごの生ジュース
冷酒

千ひろ
京都市東山区祇園町北側279-8
電話 075-561-6790
12:00〜13:00入店(前日までに要予約)、17:00〜20:30入店
日曜休み(祝は営業)

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涼

何だか、私もその場にいるような感じがするくらい素敵なお話でした~。さりげない気配りを感じさせるカウンターのお店!!だなんて、私も体験してみたいです~。

そして、白味噌のお話も、初めて知りました。普段から角餅が普通と思っていたので、丸餅見ても「可愛いわ~」と思うくらいの鈍感さ(笑)。お雑煮は全く別物なんですね~、また勉強になりました。

ゆり根は、私はあまり馴染みないのですが(両親は道産子なんですけど、実家の食卓で見たことないような・・・)、主人は好きです。

鯛も美味しそう♪いつも安い養殖しか買わないので・・・。
by 涼 (2009-01-23 09:38) 

うさこ

心づくしがいっぱい。勉強になることもいっぱい。いい時間が過ごせてよかったですね。どれも気になるけど、特に百合根の茶巾絞りって食べてみたいなあ。
by うさこ (2009-01-23 11:28) 

幸福もん

>涼さん
どれもこれも美味しく、そしてお酒が進むお料理ばかりでした。
お雑煮の話など、プロの話はいろいろ面白いです。
私は関西は丸餅と思っていて何もかもがそうだと思っていました。
土地でお話しを聞くと面白いです。

>うさこさん
とってもよい時間でした。
ゆり根の茶巾は同じ材料を使っているはずなのに、全く違う
味でした。来年のゆり根の時期にはちょっといろいろ試して
みたくなりました。
by 幸福もん (2009-01-24 22:24) 

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